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エンジニアからみるマネジメント基礎 - 第4回 人間行動の理解

Management
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では前回に引き続き、以下の全7回のうちの第4回目になります。

  1. 管理の基礎
  2. 仕事の管理
  3. 改善と問題解決
  4. 人間行動の理解 ← 今回はここ
  5. 部下の育成
  6. よい職場つくり
  7. 管理者の自己啓発


第4回 人間行動の理解

これまでは「仕事の管理・改善」という側面から管理者を仕事をみてきた。ここで視点を変えて、「人」の側面から管理者の仕事を考えてみる。

4.1 さまざまな人間観

4.1.1 科学的管理法における人間観

20世紀初頭、フレデリックテーラーは管理を科学的に行うべきという考え「科学的管理法」を提唱した。労働者を科学的に管理するという「科学的管理の5原則」が有名です。

  1. 労働者に明確な、しかし、やや難しいタスクを与えること
  2. タスクの達成に必要な諸条件を標準化すること
  3. タスク以上にできた場合には高い報酬を払うこと
  4. タスク以下の場合には損失を負担させること
  5. タスクは一流の労働者でも難しい水準にすること

このテーラーの考えは、その後合理性を追求するあまり人間性が軽視されているという批判をうけることになったが、その科学的接近の考えや「標準」という概念を確立したことは大きな功績として残っている。


4.1.2 人間関係論における人間観

しかし1920年代後半から1930年代前半にかけて行われたホーソン事件は、科学的管理法の人間理解があまりにも単純することをつきとめた。
作業グループを2つにわけて、照明の明るさを変えたら作業効率は上がるかという実験であったが、結果として明るかろうか暗かろうが、能率は実験中上がり続けた。
メイヨー教授が行った実験による結論は「人間とは感情の動物であり、照明などの外的な条件よりも、人間の感情や態度や職場内のインフォーマルな人間関係などの方が作業能率に大きく影響する」ということであった。ここから人間関係論と呼ばれる理論や実践上の提案がなされるようになった。提案制度、社内報、職場懇談会、レクリエーションなどはいずれも人間関係論の中から生まれた考えである。

4.1.3 行動科学における人間観

その後、人間についての科学的な探求はいっそう深められた。

欲求の5段階

アブラハム・マズローが提唱した欲求の5段階説。人間は欲望の塊であり、しかもだんだんと欲が深くなっていく傾向がある。
1. 生理的欲求 - 睡眠食事など生命維持に必要なもの
2. 安定欲求 - 危険や経済的な不安から逃れたい欲求
3. 親和欲求 - 人と仲良くしたい欲求
4. 自尊欲求 - 他人から認められたい欲求
5. 自己実現欲求 - 自分自身を精一杯に活かしたいという欲求


X理論・Y理論

1960年頃から行動科学と呼ばれる新しい学問が注目されるようになり、その代表格であるダグラス・マグレガーはその著書「企業の人間的側面」の中で、ユニークな仮設を提唱した。
彼によれば労働に従事する人間の本性に関しては2つの見方があり、それぞれをX理論およびY理論と名付けた。

[X理論の見方]
大多数の人間によって労働は嫌なもの、やりたくないもの、金銭的報酬だけでは駄目で厳格に監視したり処罰したり脅したりしないと働かない。進んで責任を取ろうとも思わず、細かな指示を必要とする。

[Y理論の見方]
労働は遊びのように、やり方にとっては楽しみともなりうる。自身が設定した目標のために骨身を惜しまずに努力する。大多数の人間は責任をもって仕事を任されることを望んでいる。


マグレガーはこれまでの人事管理がうまくいかなかったのはX理論に基づいていたからであり、これからはY理論に基づいて個人の欲求と組織の要請とを調和させるような「統合と自己統制による管理」を戦略とすべきことを提唱している。


衛生要因と動機づけ要因

ピッツバーク心理研究所にいたフレデリック・ハーズバーズとその同僚たちは、労働者がやる気をなくす要因を研究した。それは衛生要因と動機づけ要因は互いに独立していることを発見した。

[衛生要因]
福利厚生、給与、処遇、作業条件、人間関係、会社の方針などの外的な条件は、不満を予防するだけの歯止めの役割しかしない

[動機づけ要因]
やりがいがある仕事を通して達成感を味わったり、周囲に認められたり、自己の能力を活かせたり、責任をもって仕事を任されたり、自己成長できたりなどの動機づけ要因が、従業員のやる気を向上させる。


エンジニアマネージャーとして
様々なマネジメントに関する研究がありますが、実体験ともかなり合っているなと感じます。エンジニアは給料より、開発環境・作業環境などを重視するなど採用市場では言われますが、それもこれらの一端なのかもしれません。給料を上げるより、オフィス環境を良くしたほうが投資対効果が高いといっている記事を見たこともありますが、分かる気がしますね。マネージャーとしては、衛生要因からくる不満を解消しても一時の歯止めにしかならないことを理解しておいたほうがいいでしょう。それよりも動機づけの方に注力したほうが、メンバーはやる気を出してくれるということです。


4.2 動機づけの方法

4.2.1 動機づけの考え方

人間がある行動を起こすとき、人間の内面にあって人間を行動へと駆り立てるものを欲求(または動因・動機)といい、人間の外側にあって人間の行動が目指そうとする対象を誘引(または目標)という。この欲求と誘引が結びついて、人間がある行動を起こしたとき、その人は「動機付けられた」という。

例)喉が乾いた(欲求)、生ビールの看板が見えた(誘引)、店に入った(動機づけられた)


4.2.2 動機づけの方法

人為的に刺激を与えることによって行動させる外発的動機づけと、人間が本来的にもっている欲求に訴える内発的動機づけがある。

  • 外発的動機づけ

賞罰を与える
競争させる

  • 内発的動機づけ

興味をもたせる
目標を自覚させる
成功感を体験させる



エンジニアマネージャーとして
エンジニアはとくに外発的動機づけを嫌う傾向にあると思います。賞罰や競争によってやる気を出させようとしていたら、逆にやる気がなくなることでしょう。マネージャーとしては、もし経営層がそのような考えをもっていたら、きちんと正してメンバーを守らないといけません。



以上、第4回 人間行動の理解でした。